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3.3.4耐食性
(1)海水に対する耐食性
5000系合金の海水中で生じる腐食形態は、通常、孔食である。船体外板に塗装が施され、かつ、電気防食(流電陽極法)によって保護されている限り、腐食を生じないと考えてよい。接岸時の衝突その他の外的要因によって塗膜が脱落していたり、或いは、プロペラ直上の船底に生じやすい塗膜のふくれ、漁船では漁網その他によって生じる塗膜の損耗する部位等には、孔食を生じやすい。一般に、腐食発生の可能性があるのは船体内部であり、無塗装の部位があると結露や海水の飛沫等によって腐食することがある。
5083合金板を海水に長期間浸漬した場合の最大孔食深さは、多くの実験結果から0.5mm前後までとみなされ、静的強度には影響を及ぼさない。熱処理型合金である6000系は、金属間化合物としてのMg2Siの結晶粒界への析出の程度が、その耐食性(粒界腐食)を左右すると考えられている。海水中では5000系合金より多少劣る39)という例もあり、また、6N01−T5合金と5083−H32合金の促進腐食比較試験結果では、両合金間に有意差が見出されていない40)。ただし、これらの耐海水性の比較は、いずれも無塗装の場合であって、船舶用の塗装をした状態での比較ではない。
一方、船底構造に6N01−T5合金押出形材と6951合金ハニカムパネルを採用した「のじぎく?Z」は、進水後4年を経過したが、腐食は船底に未だ見出されていない41)。したがって、船体軽量化の観点から、6NO1−T5合金πセクションが甲板や水没しない船側外板への適用可能となるように、上部構造への使用実績から逐次検討する必要がある。
(2)応力腐食割れ感受性
3%程度以上のMg量を含む5000系合金の応力腐食割れ感受性については、質別の影響を含めて多くの実験がなされており、結晶粒界への析出物β相(Mg2A1。)と関係がある。この相は、粒内と比べて電位が卑なので優先的に溶解しやすく、粒界腐食と応力腐食割れに影響を及ぼす、と考えられている。質別を含めて冶金学的に対策がとられているので、実用上は問題がない*6。各種の応力腐食割れ促進試験結果を実際の応力腐食割れや粒界腐食に結び付けるのは難しいが、それらの結果から類推42)すると、冷間加工度20%程度を超えると応力腐食割れ感受性が

 

*6 米国アルミニウム協会設計規準及び英国構造規格BS 8118等は、Mg量3%を超える5000系(5456、5083、及び5086)合金を温度66℃を超える環境に長期間曝すと粒界腐食を生じる恐れのあることを指摘している。一方、我が国における船舶用材としての5083合金のMg量の変遷は、次のようである。
英国規格BS1477におけるNP5/6合金のMg量3.0〜5.5%に対して、船舶用軽金属委員会の舶用A1合金板仮第3種(昭和29年)を経て昭和30年の防衛庁規格・艦船用アルミニウム合金板ANPでMg量が3.0〜4.7%と規定された。昭和33年のJlS H 4104耐食アルミニウム合金7種(A2P7)でMg量が3.8〜4,8%となり、昭和45年のJlS規格から米国規格と同じくMg量4.0〜4.9%となった。したがって、初期の頃は応力腐食割れに対する懸念からMg量を低く抑えていたのが、次第に増加したことになる。
船舶に使用して応力腐食割れを生じた例は、殆ど見受けられないが、以上のような経過があるので、輸入材等を使用する場合には、その化学組成(並びに機械的性質)を確認しておくことが望ましい。

 

 

 

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